2012年7月30日月曜日

エボラ出血熱

隔離病棟入り口
エボラ出血熱、感染容疑者隔離病棟入り口 (撮影/ウガンダ 2001年)

ウガンダで三度目のエボラ出血熱が発生しています。
バイオセーフティーレベルで最も危険なレベル4に分類されるエボラ出血熱は、未だ自然界の宿主が分からず、有効な治療方法もありません。

その 感染経路は接触感染だといわれていますが、フィロウイルス科のレトロウイルスであるエボラウイルスは、その性質上、自らを複製する際にコピーミスを起こしやすく、突然変異を起こし飛沫感染になる可能性もあり得るそうです。

私は、初めてウガンダでエボラ出血熱が発生した2000年に、アウトブレイクの中心地だった町に入ったのですが、銃弾が飛び交う戦場とは全く異なる「眼に見えないウイルスの恐怖」を肌で感じ、「なんでこんな所に来ちゃったんだろ……」と心の底から後悔しました。

しかし取材を通して、「感染の恐怖と戦いながら隔離病棟内で感染容疑者を診察する医療従事者」、「WHO(世界保険機構)やCDCなどの国際機関の迅速な対応」、「感染拡大を防ぐため地域を巡回して聞き取り調査を行ったり、病院や医療スタッフのサポートなどを行うウガンダ各地から駆けつけたボランティアの方々」など、「人間vs感染症」の最前線を見させてもらい、そのシステマチックな対応と人々の勇気に感銘を受けました。

残念ながら今回もすでに14名の死亡者(感染者20名/2012年7月30日時点)が出てしまい、内9名は一家族とのこと……。
おそらくその原因は、2000年のアウトブレイク時も同様のケースが多数あったのですが、現地の風習として行われている死者との最期の別れとして行われる「口づけ」だと思われます。

ウイルスの活動が最も活発になるのは亡くなった直後であるため、その「口づけ」により死者の表皮から感染してしまうのです。
「正直なところ、何人かの人が亡くなるまでその症状がエボラだとは分からない」。
2000年の取材時に、現地で治療をしていたある医療関係者から聞いた言葉です。事実、エボラだと判明するまでに診察・治療した医療関係者が、今回も2000年も亡くなってしまっています。
「口づけ」の風習も同様で、その疾病がエボラ出血熱だと分かるまで防ぎようがないでしょう。
飛行機を始めとする高速移動体が網の目のように張り巡らされている現代。
アフリカのウガンダで発生したエボラ出血熱が他国に飛び火する可能性はゼロではないと思いますが、各国で可能な限りの準備は行っています。

(日本も2000年のアウトブレイク時に、ウイルス性出血熱の診療を目的に初めて日本人専門家5名を現地に派遣したり、各空港で感染症対応訓練を行ったりしています)

しかし、国の対応だけではウイルスは防ぎきれません。
最も重要なのは、我々一人一人が日々注意することです。

「一般的にできる最大にして唯一の予防方法は、手洗いだね。外出先から帰ってきた時、食事の前、トイレの後、こまめに石けんを使い手を洗う事こそが、誰でもできる最も効果的な予防だよ」。

2000年のアウトブレイク中に行われたプレスカンファレンスで、「私たち一般人がウイルスから身を守るには、いったいどうすればよいのか?」とのウガンダ記者からの質問に対し、最高責任者だった厚生大臣が返した答えです。
子どもの頃から耳が痛くなるほど聞く台詞ですが、アウトブレイク中に聞くととても重く、以来私はこまめに手洗いをするようになりました。
現在も現地では多くの方々が感染拡大を防ぐため、最前を尽くしてくれています。亡くなられた方々に哀悼の意を表すとともに、今も最前線で戦い続けている関係者の方々の無事と、一刻も早い終息を心から祈ります。

【関連リンク】 Gallery~「見えない暗殺者-エボラ出血熱」