2012年1月15日日曜日

映画「マシンガン・プリチャー」

2月4日から公開される映画「マシンガン・プリチャー」へのコメント依頼を配給会社の方から頂き、昨日、原稿作成のため送付してくださったDVDを拝見しました。
(同映画の重要な要素の一つとして、私が2000年から継続取材しているウガンダのゲリラ組織LRA〔神の抵抗軍〕が出てくるため、お声かけしてくださったようです)

簡単に映画の内容をご紹介すると――
「あるきっかけで神を信じるようになり更生した元麻薬売人のアメリカ人が、更生の過程で偶然知ったLRAの脅威に晒されている子どもたちを救うためアフリ カにわたり、様々な紆余曲折そして葛藤を抱えながらも自分の信念を信じ、自信の手に銃を持ち戦うことで子どもたちを救い・守る」
というストーリーです。

このように書くと、正義の象徴である主人公が悪と戦う「よくある勧善懲悪な映画」と思われてしまうかもしれませんが、この映画が違うのは、主人公は決して 正義ではなく、そしてその行動も「正しいとも間違っているとも言い切れない」こと、そしてすべてノンフィクションであることです。

実は私もウガンダ北部の取材中に主人公が感じたのと同種の無力感や葛藤を抱いた事があり、「人類なんて滅びてしまえばいいのに。ジャーナリストなんて仕事、誰も救えないじゃないか。もう死んでしまいたい」と世界と自分に絶望したことがありました。

幸い気持ちが底の底に落ちきる前に、リハビリセンターで「元子ども兵士」だった子どもたちの「生きたい」「なんとしても生きるんだ」という姿をに救われ、今も生きながらえ、細々とですがジャーナリスト業を続けることができています。

そのためこの映画にはとても感情移入ができ、「自分が正しいと思えることを見い出し、実際に行動に移した」彼に対し(賛否両論はあると思いますが)、尊敬の念と敬意を抱きました。

一人の男の生き方を通し、「今の世界が抱える矛盾」・「人間の命」・「人生の歩み方」を考えるきっかけになる、とても素晴らしい映画です。
(感情移入しすぎているため表現がちょっと大げさかもしれませんが…)

もし興味をもたれた方がいれば、是非見ていただきたいと思います。
【映画公式サイト】→「マシンガン・プリチャー」
【Photo Gallery 】→子ども兵士

(追記)
映画「マシンガン・プリチャー」に関してもう一つ。
エンドロールでご本人の顔写真が出てくるのですが、それを見て遠い私の記憶の中でずっと引っかかっていた事が解決しました。

あれは2002年か2003年頃だったと思うのですが、当時のウガンダ北部はまだLRAの脅威が色濃く、夜になると1万人を超える子どもたちが襲撃 を恐れ周囲の村から北部最大の町「グル」に避難してきており、日中でさえ、グルの町から出るには軍のエスコートが必須という時代でした。

ある日の夕刻、取材を終えてホテルに戻る道中で立ち寄ったキオスクで、砂糖やソーダ・ビスケット・クッキングオイルなどを「超大人買い」してピック アップトラックの荷台に次々と積み込む、丸太のような腕に入れ墨をした人相の悪い一人の白人と武装した黒人の集団と出くわしました。

とにかくその雰囲気が異様で、「目を合わせちゃいけない…。目があったら何されるか分からない」と怯えた私は慌てて車に戻り、その一行が最も危険だといわれていたスーダン国境に続く道に、夕闇の中荒々しく立ち去って行くのをサイドミラー越しに見送ったのです。

その後キオスクの主人に尋ねてみると、「ああ、あれはどこにも所属しない個人の軍隊みたいなもんだよ」といわれ、「賞金稼ぎみたいなもんか。それにしても この時間から町の外にでるなんて自殺行為じゃない?いったい何者なんだろ?」と、ずっと頭の片隅に引っかかっていたのです。

エンドロールの写真、まさしくあの時に見た人相の悪い白人、チルダースさんご本人でした。

軍人でもめったに感じることのない「触れただけで叩きつぶされそうな圧倒的なオーラ」、映画を見て納得しました。